(恋愛って不公平。どうして、男女で一緒のペースで好きになってゆかないのだろう。)
私は思った。会社からの帰り道、夕暮れ時の道路を歩きながら。
午前中まで降っていた雨でできた水たまりを避けながら。
(彼の方が先に好きになって、告白されて、
私の好きがあとから彼について行って、やっと彼の気持ちに追いついたと思ったのに、
彼はもう冷めていて、でも、私の気持ちは残っていて・・・)
今日は強い風が吹く。心を乱す風が吹く。
(どうして、なのだろう。
どうして、一緒に好きになって行けないのだろう。
どうして、同じペースではないのだろう・・・)
今年は桜が咲くのが遅い。3月末になっても桜は咲く気配を見せない。
2月に暖かい日が続き、早咲きの桜が例年以上に早く咲いて、ニュースになっていた。
「異常気象でしょうか、これでは3月上旬に桜が満開になってしまうかもしれませんね」
テレビのコメンテーターが言っていた。あれは2月の中頃のことだった。何かがおかしい、みんながそう思っていた。
でも、3月になったら暖かい日が少なくなって、桜の開花は遅かった。数日後には4月になるという今日になっても、桜は咲くようには見えない。つぼみがついている枝もあるけれど、ほとんどの桜はつぼみさえ見えない。
何かおかしい・・・。
公園の桜の木の下を私が通るとき、強い風が吹いた。生温かくて、好きではない風。髪を乱させるだけの嫌がらせの風。
ほら、コンタクトにごみが入ったじゃないか・・・。
私はその場に立ち止り、バックから手鏡を取り出して、目に入ったゴミを取り出そうとした。街灯の灯りを使って目の中を見る。ごみは見えない。見えるのは目にうっすらとたまる涙ばかり。
目が痛い。胸も痛い。涙が出る、バカみたいだけど涙が出る。彼のことを思って涙が出る。恋愛って不公平だと思って涙が出る。また失恋した、と思って涙が出る。もういやだと思って涙が出る。
数分経って泣き止んだとき、足許の水たまりに、桜の枝が落ちているのが見えた。つぼみのまま、風に吹かれて落ちた枝。
かわいそう、この桜の枝は、花を咲かせることなく、
こうやって風に吹かれて落ちてしまった。
このまま枯れてゆく。
花を咲かせることなく。誰にも咲いた姿を見せることなく。
・・・私みたい、私もいつも咲くタイミングがわからない。いつも咲く前に散ってしまう。咲くタイミングがいつも、いつも、わからない。
私もこの枝と同じ。
そして、私はその枝を拾って自宅に持ち帰る。
そして、水を入れた小瓶に刺しておく。
何かの救いを求めて。
何かの救いを求めて。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後、小枝の桜は満開に咲いた。
私は思った、救いが咲いた、と。
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