お母さんへ
あなたが亡くなって9年経ちました。
亡くなった時6歳だった僕と はなは今年中学を卒業し、高校へ進学します。高校は同じ高校へ進学することができました。この地域でいちばんの進学校です。
あなたが亡くなってからの9年間、時間は僕たち家族の間で、とてもゆっくり進みました。そして、家はとても暗いです。
お父さんはずっと元気がありません。夜、お酒を飲みながら一人泣いていることもあります。お父さんは本当にお母さんのことが好きだったようです。この9年間、ずっとつらそうです。
仕事もそれほど熱心にやることもなく、いつも残業しないで家に帰ってきます。休みの日もずっと家にいることが多いです。
お父さんはまだ40代前半ですが、すでにお年寄りのように見えます。
はな も元気はありません。学校などで、元気があるように振る舞ってはいるけれど、ふとした表情に見えるさみしげな顔はかわいそうです。双子の妹とはいえ彼女を救ってあげられない自分の無力さに絶望的な気持ちになることがあります。
中学に入ったころから、はな とケンカをすることは少なくなりましたが、小学生のころは、よく はな とケンカをしていました。はながずっとあなたに会いたがっているのがイヤだったのです。
はな はいつも「お母さんに会いたい。お母さんに会いたい」と言っていました。
「お母さんは死んだのだから会えないんだ」と僕が何度言っても彼女は繰り返します。
はな はお母さんが亡くなった悲しみからまだ立ち直れていないようです。
僕だって、あなたがいなくてさみしいです。いまも元気でいてくれるといいのにな、といつも思います。
学校のお弁当のとき、友だちが母親が作ってくれたお弁当を持ってきているのを見ると、とてもうらやましく思います。おばあちゃんが作ってくれるお弁当もおいしいけれど、古臭いし、ちょっと違う。
学校の授業参観や、塾の送り迎えなどのときも、母親が来ている友だちはうらやましいです。いいな、っていつも思う。
でも、仕方ないですよね、お母さんは病気で亡くなってしまったのだから。
あなたが亡くなってから、僕と はな はあなたの教えを守って、ていねいに丁寧に生きるようにしています。
学校の授業、勉強
部活動
友だちとの付き合い
自分の夢
お父さんとのこと
親せきのおじさん、おばさんとの付き合い
など。
ひとつひとつに心を込めてていねいに接するようにしています。それがあなたの教えですから。
正直、時々いやになってしまうことも多いです。投げ出したくなることもあります。もういいよ、適当にやろうよって。
でも、できません、そうすると、僕の心の中でのあなたが本当に亡くなってしまいそうだから。
僕はあなたと一緒に生きていきたいです。あなたに僕の心のなかで、ずっと生きていて欲しい。ですから、あなたの教えを守って、ていねいにすべてのことに接しようと思っています。
そのおかげか、学校の成績はまあまあよく、部活でも活躍できました。友人たちが適当にする勉強や運動にきちんと、ていねいに接することで、成果につながったのだと思います。
あなたの教えを守っていてよかったと思います。
ありがとうございます。心から感謝します。
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お母さん、僕があなたについてよく思い出すのは、あなたの香りについてです。あなたが亡くなったときに残っていた香水をときどき出して、あなたとあなたの香りを想い出します。
6歳のとき、あなたがこん睡状態に陥る前に、最期に、あなたに抱きしめられました。やせ細ってしまって、チューブや機械で全身を覆われていたけれど、そのときのあなたのやわらかさと、心地よさと、香りを想い出します。
あなたはこの香水が好きでしたよね。僕もこの香水が大好きです。この香水をかぐたびに、あなたの香りに触れるたびに、あなたのことを思い出します。あなたのやさしさや、キレイさや、愛を。
そして僕は泣きます、父や はな が家にいないときに、あなたの香りであなたを想い出して、僕は泣きます。泣いて、泣いて、泣き続けます。
僕の中でもあなたを失った悲しみは癒えていません。
お母さん、なぜあなたは亡くなってしまったのですか。
なぜ僕たち家族の中にいてくれなかったのですか??
おとうさんも、はなも、ぼくもずっと悲しんでいます。もっと一緒にいたかった、もっと一緒に過ごしたかった。
あなたが、難しい病気になってしまったことは知っています。治すことができない病気だったということも知っています。でも、なぜその病気にあなたはかかったのだろう、なぜその病気はあなたを選んだのだろう。
ずっと、ずっと、このことを考えています。6歳の時からずっと。
ずぅーと、ずぅーと考えてます。
僕はこの問いに、ていねいに向かい合っています。
あなたはなぜ病気になったのか、病気はなぜあなたをえらんだのか。
あなたは何だったのか、何があなたを作っていたのか。
私たち家族は、あなたを失い、ほかに何を失い、そして、少しでも何か得られるものがあったのか。
ずっと、ずっと問うています。
6歳の頃から、15歳になるまでずっと。
そして答えは見つかっていません。
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この香水のビンを持つと、とてもほっとします。9年間、この香水を救いに生きてきました。
僕はあなたの香りが大好きです。
あなたのことが大好きです。
お母さん、一度でいい、あなたに会いたい。
あなたの香りに包まれて、あなたのやさしさに抱きしめられたい。
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