2016年5月4日水曜日

ゆったり時は流れる

僕の気持ちが落ち着いたので
文章にまとめてみました。





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Facebookで あるメッセージが来たのはいまから数か月ほど前のこと、ある暑い夏の日のことでした。


それはクロアチアに住むある女性からのメッセージで、それ以降、僕と彼女はドイツ語や英語で連絡を取っていました。



その内容をざっとまとめると下記の通りです。



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こんにちは。久しぶり。

私のこと、覚えている??いまから20年ほど前のことになるけれど、1995年にドイツ・マインツ大学の夏季ドイツ語研修で一緒に勉強したクロアチアの××です。


その後、長い年月が経ったけれど、元気?いま、どうしてる?結婚して奥さんやお子さんもいるのかしら。仕事は何をしているの??


私はマインツ大学での研修の後、8年ほどドイツ・ミュンヘンで働いて、その後、内戦が収まった故郷のクロアチアに戻って、結婚しました。結婚生活は当初楽しかったけれど、子どもがなかなかできなかったり、夫がガンで亡くなったりして、後半は大変でした。


夫の死後、数年してだいぶ気持ちも回復してきたのだけれど、今度は私に乳がんが見つかって、ずっと療養を続けてきました。でも、クロアチアはあまり医療が発展していないし、私もお金があまりないので、できる治療も限られています。そしてガンが進行して、私ももうすぐみたい。


私の両親は他界していて、兄弟もいないから、自分の死後のために、自分のモノを片付けようと、傷みのひどくないときに、持ち物の整理をしています。そうしたら20年前ドイツで一緒に勉強したメンバーの名前、連絡先が出てきて、こうやってfacebookを通じて連絡を取ってみています。facebookって便利ね、こんな風に20年経っても、そのときの友だちと連絡が取れるのだから。



あなたと連絡が取れてよかったです。



私、よく覚えているの。あの夏の日、ライン川のほとりに座って、あなたと一緒にいろいろ話したこと。少し先にある空港から飛んでくる飛行機が音も立てずに、方向を変えて飛んでゆくのを眺めながら、ゆったり話したね。お互い、懸命に、ドイツ語の辞書を引いたり、英語を使ったり、ノートに単語を書いたりして、話したね。あの時、とても楽しかったな。



私ね、あなたはライン川の流れがゆったりだと言ったことが、とても印象に残っているの。
日本の川は流れが速くてゆったりしていないと。日本は狭いから、山から海へ至る川の流れは速いのだと言った。それに比べてヨーロッパの川はゆったりしていて、気持ちが落ち着くと。


それがとても印象的だった。クロアチアの河の流れもゆったりしているから、一度、流れの速い川も見てみたい、と思った。



私にとって、あなたは、唯一の日本の友だちです。黒い髪と、黒い瞳の友だち。富士山というステキな山の近くに住んでいるただ一人の友だち。私、一度、この目で富士山を観てみたかったな。





私ね、自分がガンになるなんて思わなかった。両親もガンで亡くなったし、主人もガンでなくなったけれど、不思議と自分はガンにならないと思っていた。そう信じていた。神も私にはそういう運命は与えないって。



でもダメね、胸に しこりの違和感はあったのだけれど、夫の他界のショックなどもあって、気付かないフリをしていた。気付かないフリなんてしなければよかったのに。たぶん年齢が若いせいもあるのだと思うけれど、進行が早くて、病院に行った時には手遅れでした。



悲しいけれど、仕方ないよね、私、バカだったな。




ねぇ、お願いがあるの、あなたに負担をかけてしまうかもしれないのだけれど、聞いてもらえるかな。変なお願いだとは思うけれどごめんね。



私ね、あなたに、私のことをときどき思い出してほしいの。勝手なお願いだとは思うけれど、私の行ったことのない日本という国で、私の見たことのない富士山の近くに住むあなたに、私のことを思い出してほしい。



私、怖いの。私のことを知っている人が誰もいなくなるかもしれないということに。私の両親はすでに亡くなってしまっているし、親戚は何人も内戦で死んでしまった。友達の多くは内戦から逃れるために、ドイツやアメリカに移住してしまった。幼なじみとも連絡が取れないことが多いの。


だから、ごめんね、おかしな話かもしれないけれど、私のことをときどき思い出して。ライン川の流れと、音もなく飛行機が飛ぶ風景とともに、私という人がいたことを想い出して。


こんなお願い、ごめんね。でも、何十年か経って、あなたが天国に来たときに、天国をゆっくり案内してあげるから。そうしたら、あなたが生まれて何十年も過ごしてきた日本という国についていっぱい聞かせて。そのときにはお互いに時間がたくさんあるから、たくさん話せるよね。天国では、言葉の違いは問題になるのかな??わからないけれど、そのときが何十年も先に来ることを、楽しみにしているね。






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ありがとう。


あなたと最期にこうやって何か月か、連絡が取れて、気持ちが落ち着きました。少し勇気が出てきました。心の整理もできたように思います。




ここ数日は痛みが激しくなることが多くて、麻酔で意識がボーっとしていることも多いから、なかなかメッセージを送れないかもしれないけれど、できる限りメッセージは送るようにするね。



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先に伝えておきます。





ここ数か月、facebookでお話しできてとても楽しかった。



何十年かして、またいつかあなたとお話しできることを楽しみにしています。




さようなら。ありがとう。




クロアチアから、黒い瞳のあなたへ。




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今年(2015年)の冬、僕が富士山のふもとで、雪をかぶった富士山をひとりで眺めているときに、ふと人の気配を感じました。長い黒髪で、ロングスカートの似合うとてもステキな女性の気配でした。



彼女は、最期に見れたのかな、体の痛みも、肉体もなくなって、自由に旅ができるようになって、日本の川や富士山を観ることができたのかな。



僕がそちらの世界に行くのはもう何十年も先のことにしたいけれど、彼女に会える時が来たら、ゆっくり僕の人生や日本という国について話したいと思います。



そして、クロアチアにとてもステキな白人の女性がいたことを、少しでも多くの方に知ってもらうよう、このような文章を書いてみます。



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アンナ、君は日本の川のように、生きるのを急ぎ過ぎてしまったのだと思います。それに比べ、僕はヨーロッパの河のようにゆっくり生きることにします。


ライン川で過ごしたあの夕暮れの時間を思い出しながら、僕は一日一日を大切に生きてゆきます。



そして、いつか君と再会したときに長く話せるように、日本という国でいろいろと経験しておくことにしますね。



では、ゆっくり、休んでください。



遠い日本にある、富士山に近い静かな街から。





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